膵がんを発症しやすいHBOCと診断された方に対して,膵がんを早期に発見できるように定期的に画像検査で評価をすることが勧められています。
解説
1サーベイランスの対象となる方
膵がんは早期で発見することが難しい悪性腫瘍です。多くは手術による切除ができない状態で発見されます。その理由は,早期に発見するための有効なスクリーニング方法がまだ定まっていないためです。ただ,HBOCと診断された方は,膵がんの発症率が高いと報告されており,そのため,どのようにすれば早期に膵がんが発見できるのかについて専門家の間で議論が交わされてきました。
CAPSという国際会議にて,BRCA遺伝子に病的バリアントを含む膵がんの発症リスクが非常に高いと考えられる方に対し,どのように検査を行ったらよいかについて提唱されました。これによると,特に父母,きょうだい,子どものうち1人以上が膵がんにかかったことがあると,ご自身が膵がんを発症する可能性が高くなると報告されています。そのため,家族に膵がん患者さんがいてHBOCと診断されている場合,膵がんサーベイランスの対象であるとされています。
2サーベイランスを始める時期
①父母,きょうだい,子どもに膵がん患者さんがいる場合,ご自身が膵がんが発症する平均年齢は,家族に膵がん患者さんがいない場合の発症年齢と変わらないこと,②家族に膵がん患者さんがいてご自身が膵がんと診断される年齢は65歳が最も多かったと報告されていること,③家族に膵がん患者さんがいる場合,50歳以下で膵がん,前膵がん病変,がんになる可能性のある膵嚢胞などが発見される割合がわずか3%にすぎなかったと報告されていることより, 「50歳」 がサーベイランスの開始時期として提唱されています。ただし,父母,きょうだい,子どもに40歳以下の若年発症膵がん患者さんがいる場合には,同じように若くして膵がんを発症する可能性が高くなるため,このような場合はサーベイランスを40歳で開始することが勧められています。
3サーベイランスの方法
このようにCAPSにおいて,膵がん発症リスクの高い場合,膵がんサーベイランスを行うことが提唱されていますが,具体的なサーベイランス方法については定まったものはありません。ただ,早期膵がんなどの小さな病変を見つけるには,性能が高い超音波内視鏡(EUS)と被ばくの少ない磁気共鳴胆管膵臓造影検査(MRCP)を組み合わせ1年に一度行うことで,根治切除につながる早期膵がんを発見できる可能性が高まるとする報告があり,CAPSでもこれらの検査が提唱されています(ただし,未発症の膵がん高リスク家族性膵がん家系に対して,経過観察の画像検査は健康保険の適用外です)。ただ,このようなサーベイランスが生存率の改善につながるかどうかについては,十分な科学的根拠(エビデンス)がなく,今後のさらなる研究が望まれています。