第1章 HBOCについて知っておきたい

Q5

遺伝子の検査について教えてください。

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A

医療として行われる遺伝子関連検査は3つに大別でき,ウイルスや細菌への感染を調べる“病原体びょうげんたい遺伝子検査”,生まれた後に起こる遺伝子の変化を調べる“体細胞たいさいぼう遺伝子検査”,生まれつきの生涯変化しない遺伝情報を調べる“遺伝学的検査”があります。

解説

からだの設計図を調べる検査を遺伝子関連検査と呼びます。これは3つに分類されます。
1つ目は,ヒト以外を扱う「病原体遺伝子検査」です。ウイルス,細菌などの存在を特定するために行われる,その生物しかもっていない遺伝子の配列を調べるPCR法は代表的な検査法です。

2つ目は,ヒトのからだの一部分のみを調べる「体細胞遺伝子検査」です。最近,がん診療の中で行われるようになった多遺伝子パネル検査(コラム5参照)はその代表です。手術や生検(用語集参照)で採取したがん組織からDNA(用語集参照)を抽出し,がんの発症の原因となっていると思われる遺伝子の変化(病的バリアント)を調べ,最適な薬を提案するというものです。

3つ目は,受精卵(胚)に始まる生まれつきの体質を調べる「生殖細胞系列遺伝子検査」(遺伝学的検査ともいいます)です。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)の患者さんは,受精卵(胚)の時点から,BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子に原因となる変化(病的バリアント)を保持していますので,これを調べる遺伝子の検査は,この遺伝学的検査に該当します。

それでは,HBOCの遺伝学的検査はどのように行われるのでしょうか。まず通常の採血(2~20 mL)をします。生まれつきの変化を調べるので,食後でも,体調不良でも大丈夫です。血液は国内外の検査センターに届けられ,そこで遺伝子が調べられます。血液に含まれる白血球からDNAを抽出し,BRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子の塩基配列えんきはいれつに変化はないか,また構造の変化(欠失けっしつ重複ちょうふく)はないか,丁寧に調べます。変化が検出されたら,それが本当にHBOCを引き起こすかどうか専門家による検証が行われ,結果が返却されます。

HBOCの診断のためには,この遺伝学的検査が必須ですが,その優れた点を整理してみましょう。まずは,少量の採血で行うことができるというからだへの負担の少なさ,病状の原因がわかって納得できること(なぜ若い年齢で乳がんになったのか? なぜ家族に乳がん,卵巣がんを発症した人が多いのか? など),健康管理に役立てられること(最適な検診計画,薬やリスク低減手術の選択肢が得られる,など),そして,次世代など家族の健康管理にも役立てられること(がんを発症する前に遺伝子の検査でHBOCと診断できます)が,この遺伝学的検査の優れた点といえる
でしょう。