HBOCと診断された男性は,前立腺がんを発症するリスクが高く,また進行が早いことが,その特徴として知られています。
解説
1発症する前立腺がんの特徴
BRCA遺伝子に病的バリアントを保持し,HBOCと診断された男性は,一般の男性と比べて前立腺がんを発症するリスクが高いことが知られています。
前立腺がんの悪性度を判定する方法として病理検査によるグリソンスコア(用語集参照)が用いられます。HBOCと診断された男性は,前立腺がんが発見された際に,このグリソンスコアが高く,また初期診断時にはすでに遠隔転移していることが多いと報告されています。NCCNガイドライン(用語集参照)においては,グリソンスコアが高い症例や,臨床病期(ステージ)がT3a以上の局所進行がんなどでは,BRCA遺伝学的検査が考慮されると記載されていることからも,HBOCと診断された男性の前立腺がんは,悪性度が高く,進行が速いことが,その特徴として知られています。
2監視療法について
治療に関しては,PSAが10ng/mL以下と低く,がんの大きさが前立腺の一部にとどまり,グリソンスコアが6以下などの一定の条件を満たす場合は,将来的な前立腺がんの再発や転移が極めて少ない「超低リスク群」と分類されます。そのような患者さんには前立腺がんは生命予後(用語集参照)に影響しない可能性があり,すぐには治療を行わず,PSAなどで経過観察を行う方法(監視療法と呼びます)が選択されることがあります。監視療法はまだ研究途中で,その方法が確立されているとはいいがたいですが,定期的なPSAの測定や画像診断,一定期間をあけた再度の生検(用語集参照)によって,悪性度の進行が確認できた際にすぐに治療を行う方法です。
監視療法を選択した場合,HBOCと診断された方に発症した前立腺がんは,病的バリアントを認めない前立腺がんと比較して約2倍と有意に悪性度が上昇したことが報告されています。BRCA1/2遺伝子の病的バリアントを保持する方においては,早期に発見された場合,監視療法ではなく積極的に治療を行うことが望ましいと考えられます。
3アンドロゲン除去療法
転移のある前立腺がん症例に対しては,一般的に,注射などによるアンドロゲン除去療法が標準治療(用語集参照)です。この治療は初期には多くの症例に有効ですが,いずれ効かなくなっていきます。その病態を去勢抵抗性前立腺がんと表記しますが,BRCA遺伝子に病的バリアントを保持する転移性前立腺がん症例ではアンドロゲン除去療法の効果が得られる期間が短い可能性が報告されています。
4PARP阻害薬
BRCA遺伝子に病的バリアントを保持する転移性前立腺がんに対しては,PARP阻害薬(オラパリブ)の有効性が検証されています(PROfound試験:用語集参照)。結果は,BRCA1/BRCA2遺伝子を含む病的バリアントの保持者ではオラパリブを服用することにより,がんの進行がない状態で生存する期間が延長するという効果が認められました。これらの試験を根拠に,日本でも「アンドロゲン受容体シグナル阻害薬加療後のBRCA1・BRCA2遺伝子の病的バリアント陽性の転移性去勢抵抗性前立腺がん」に対し2020年12月にオラパリブが承認されました。今後,日本における実臨床での使用成績の集積が待たれています。