HBOCであるという情報は,ご本人の治療やサーベイランスなど適切な医療を受けるうえで不可欠です。また,血縁者が遺伝学的検査を受ける際にも必要な情報になります。そのため,他の医療情報と同様に診療録(カルテ/電子カルテ)に記載されることが一般的です。
解説
1カルテに記載・保管される情報
カルテには以下のような,適切な医療を行ううえで重要な情報が記載・保管されます。
●遺伝学的検査を受けたかどうか
●遺伝学的検査を受けた場合は,検査の種類と結果報告書
(結果報告書には,どの遺伝子にどのような特徴があったのかが詳細に記載されています)
●病名(遺伝性乳がん卵巣がん:HBOC)
●家族歴や家系図
2カルテに記載・保管する意義
HBOCであるという情報を有効に活用するためには,医療者の間で正確に共有しておく必要があります。HBOCと診断された場合,複数の診療科(乳腺外科,婦人科,泌尿器科,消化器内科など)を受診することが珍しくありません。各診療科の医師やさまざまな職種の医療者で共有することで,遺伝情報と当事者ご自身の価値観に合わせた最も適切な医療を一緒に考えることが可能となります。
また,遺伝学的検査の結果は生涯変わることがないため,原則として検査は1回のみしか行いません。重複して同じ検査をしないために,医療安全の観点からも遺伝情報をカルテ上で共有することは重要です。つまり,検査にかかわる医療者が必要に応じて遺伝情報にアクセスするために,カルテでも情報を管理しておくことは重要といえます。
遺伝情報を血縁者の間で共有することも,血縁者にとって有効な情報として利用できます。血縁者の診断を行うときには,ご自身のどの遺伝子のどの部分にHBOCの原因となる特徴があるかという情報が必要です。そのため,すでに検査を実施された方の遺伝学的検査の結果が必要になります。遺伝学的検査の結果はご家庭で保管しておくことがとても大切です。
3診断書について
診断書は,原則カルテ同様に正確な情報が記載されます。診断書の記載についてご不明な点がある場合は,主治医にご相談ください。
4個人情報の保護
カルテに記載される遺伝情報は個人情報ですので,他の医療情報と同様に厳重に管理されています。また,すべての医療者には守秘義務があり,カルテを不必要に閲覧することが禁止されています。
また,遺伝情報は血縁者にとっても有用な情報ですが,ご自身の遺伝情報は家族であっても原則として本人の了承なしに伝えることはありません。もし,どの血縁者と遺伝学的検査を受けたことやその結果を共有したい,あるいは共有したくないなどの要望があれば,担当医や医療者に相談してください。