日本人では約200~500人に1人(0.2~0.5%)がBRCA1またはBRCA2遺伝子の病的バリアント(用語集参照)を保持しているという報告があります。
解説
1日本人では約200~500人に1人がHBOC
日本においては全人口(約1億2530万人)から計算すると,BRCA1またはBRCA2遺伝子の病的バリアントを保持する方は約25万~62万人と推定されます。この割合は,アジア民族やヨーロッパ民族などの集団により異なり,がんの病歴の有無によっても変わってきます。この割合を, 大型飛行機の乗客数(定員は500人ほどです)で例えると,BRCA1またはBRCA2遺伝子の病的バリアントを保持する方が,1~2人乗っていることになります(図1)。
2020年8月現在,国内ですでにHBOCと診断されている方は1,371人(BRCA1遺伝子に病的バリアントを保持する方726人,BRCA2遺伝子に病的バリアントを保持する方645人)というデータがあります※。ただし,この数値は国内の一部の登録施設によるデータであり,まだ診断されていない方が多くいると推定されます。
※ Arai M and the Registration Committee of the JOHBOC (2021). Hereditary Breast and Ovarian Cancer (HBOC) Database in Japan. In: Nakamura S, Aoki D, Miki Y. (Eds) Hereditary Breast and Ovarian Cancer: Molecular Mechanism and Clinical Practice. Springer, pp.243-257.
2HBOCと診断される頻度は民族によって異なる
イギリスではBRCA1遺伝子の病的バリアントを保持する方は0.12%,BRCA2遺伝子の病的バリアントを保持する方は0.14%,アシュケナージ系ユダヤ人〔中欧と東欧(ドイツ,ポーランド,ロシアなど)を起源とするグループ〕ではBRCA1/2遺伝子の病的バリアントを保持する方の割合は2.5%との報告もあり,民族によって差があります。
3HBOCと診断される頻度はがんの種類によっても異なる
診断されているがんの種類によってもHBOCと診断される方の割合は異なります。乳がん患者さんの中では約4%(BRCA1遺伝子:約2.7%,BRCA2遺伝子:約1.5%),卵巣がん患者さんの中では約10~15%(BRCA1遺伝子:約8.3%,BRCA2遺伝子:約3.5%),前立腺がん患者さんの中では約1.1%(BRCA1遺伝子:約0.2%,BRCA2遺伝子:約1.1%),膵がん患者さんの中では約3.4%(BRCA1遺伝子:約0~3%,BRCA2遺伝子:約1~6%)の方がBRCA1またはBRCA2遺伝子の病的バリアントを保持しているという報告があります(図2)。
補足“頻度”はどのように計算されるのか?
BRCA1/2遺伝子の遺伝学的検査を実施した特定の集団において,何人の方がBRCA1またはBRCA2遺伝子の病的バリアントを保持していたかの割合を表しています。
例えば,図2の乳がんの場合,BRCA1/2遺伝学的検査を実施した乳がん患者さんだけを集めた集団において,BRCA1遺伝子の病的バリアントを保持する方は2.7%,BRCA2遺伝子の病的バリアントを保持する方は約1.5%であった,ということを示しています。